大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 平成元年(わ)217号 判決 1991年8月20日

裁判所書記官

新谷喜美子

本籍

奈良県北葛城郡当麻町大字勝根二〇一番地

居住

右同町同大字勝根二〇一番地の一

会社役員

中井文治

昭和一三年三月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官栗坂満出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役三年及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、奈良県北葛城郡当麻町大字勝根一六六番地において、靴下製造業を営む株式会社ナカイの代表取締役として、その業務全般を統括する傍ら、個人で継続的に有価証券の売買を行つているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六〇年分の総所得金額が二億七、六三四万三、八五九円で、これに対する所得税額が一億七、七九〇万八、六〇〇円であるにもかかわらず、他人名義等も使用し、継続して有価証券を売買したことによる所得をすべて除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六一年三月一五日、奈良県大和高田市三和町二番一七号所在の所轄葛城税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が二、二一一万三、一九六円で、これに対する所得税額が六一八万九、八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、所得税一億七、一七一万八、八〇〇円を免れ

第二  昭和六一年分の総所得金額が五億一八八万八、三七六円で、これに対する所得税額が三億三、一二三万六、七〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、同六二年三月一〇日、前記葛城税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一、四三五万三、六六七円で、これに対する所得税額が三六万四、八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、所得税三億三、〇八七万一、九〇〇円を免れ

第三  昭和六二年分の総所得金額が七億二、五六五万二、九八二円で、これに対する所得税額が四億二、〇三三万三、四〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、同六三年三月一四日、前記葛城税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額が一、六九七万三、六六七円で、これに対する所得税額が六六万九、九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、所得税四億一、九六六万三、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実を通じ

一  被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  田中幸男、金田春基、西堀泰邦、片岡冨佐子、光久光子、中井加壽代(二通)、中井奈良治郎、中井ソノの検察官に対する各供述調書

一  田中幸男(一〇通)、金田春基、西堀泰邦、片岡冨佐子、光久光子、中井加壽代(四通)、中井奈良治郎、中井ソノ、石田洋子、藤井勇(三通)、藤田憲司の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官長岡洋、同庭本典昭、江上明、野村和重作成の各査察官調査書

一  植村知郎ほか一名、柏照正ほか一名、藤永昌博ほか一名作成の各現金預金有価証券等現在高検査てん末書

一  登記官上北泰三作成の商業登記簿謄本

判示第一の事業につき

一  大蔵事務官庭本典昭作成の平成元年三月九日付脱税額計算書(検察官請求証拠等関係カード1)

一  大蔵事務官阿部泰生作成の同年三月一〇日付証明書(前同4)

判示第二の事実につき

一  前同庭本典昭作成の同年三月九日付脱税額計算書(前同2)

一  前同阿部泰生作成の同年三月一〇日付証明書(前同5)

判示第三の事実につき

一  前同庭本典昭作成の同年三月九日付脱税額計算書(前同3)

一  前同阿部泰生作成の同年三月一〇日付証明書(前同6)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人らは、所得税法二三八条二項によれば、免れた所得税の額が五〇〇万円をこえるときは、罰金は、免れた所得税の額に相当する金額以下とすることができると規定するから、罰金額算定の基礎となる税額の改正も刑法六条にいう刑の変更にほかならないところ、昭和六二年法律第九六号による改正後の租税特別措置法三条(利子所得の源泉分離課税)、四一条の一〇(給付補てん金などの源泉分離課税)、同六三年法律第一〇九号による改正後の租税特別措置法三七条の一一(上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税)により、株式譲渡益に対する課税方法は変更されているうえ、右改正に伴う罰則については、「従前の規定を適用する」旨の定めもないから、本件の罰金額については刑法六条により新税法により算定すべきであると主張する。

昭和六二年法律第九六号、同六三年法律第一〇九号各所得税等の一部を改正する法律の附則が、所得税法違反の罰金額の上限について、直接規定していないことは所論のとおりであるが、右改正法の各附則第二条は、施行日及び改正後の所得税法が適用される年度を定め、それ以前の年度分の所得税については、なお従前の規定によると規定していることからすると、本件昭和六〇年分乃至同六二年分の所得税については右各年度施行中の所得税法(租税特別措置法を含む)が適用になり、従つて又免れた所得税の額もこれらによるものと解すべきであり、刑法六条を適用すべき余地はないものと言うべきである。弁護人らの主張は採用しない。

(法令の適用)

一  判示各所為につき

平成二年法律第一二号附則二条により、同法による改正前の各犯行時における所得税法二三八条(各懲役刑と罰金刑とを併科する)

二  併合罪の加重につき

懲役刑につき、刑法四五条前段、四七条本文一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重する)

罰金刑につき、刑法四五条前段、四八条二項

三  労役場留置につき

刑法一八条

四  懲役刑の執行猶予につき

刑法二五条一項

(裁判官 菅納一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例